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東京高等裁判所 昭和50年(行コ)18号 判決 1975年12月18日

控訴人 有限会社ランド・システム

右訴訟代理人弁護士 宮内重治

同 田坂昭頼

同 三原次郎

被控訴人 東京法務局登記官斎藤政司

右指定代理人 玉田勝也

同 荒木文明

同 帯谷政治

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人の当審における新たな訴えを却下する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、控訴につき「一、原判決を取り消す。二、被控訴人は、昭和四八年九月一日東京法務局日本橋出張所受付第五三、二五九号をもってした長銀不動産株式会社からの商号変更登記申請による登記簿の日本ランド・システム株式会社の記載を抹消し、右登記申請を却下せよ。三、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、当審における新たな請求につき「昭和四八年九月一日東京法務局日本橋出張所受付第五三、二五九号をもってした、長銀不動産株式会社からの商号変更登記申請による登記簿上の日本ランド・システム株式会社に変更した旨の記載は、無効であることを確認する。」との判決を求め、控訴代理人は、主文第一項同旨および当審における新たな請求につき訴え却下の判決を求めた。

当事者双方の事実上、法律上の主張並びに証拠の提出、援用及び認否は次の通り付加するほか、原判決事実摘示と同じであるからこれを引用する。

一、控訴代理人は、当審における新たな請求の原因として「仮に、従来の請求が不適法であるとするならば(控訴人が原審において主張した様に、商法一九条は登記簿上の効力を定めたものであって、実体法上私人に類似の商号の登記を排斥する権利を認めたものではないと解する限り)、自己の商号と同一又は類似の商号を登記された者は登記の抹消について法の救済を受け得ないこととなり、不都合である。

ところで、控訴人主張の事実関係によれば、前記登記官の登記(処分行為)には重大かつ明白な瑕疵があるから、これにより現実に不利益を蒙っている控訴人は、少くとも行政行為の無効確認の訴によって右違法処分の是正を求める利益を有する。よって、予備的に、前記登載行為の無効なることの確認を求める。」と述べた。

二、被控訴代理人は「登記官が商業登記簿に商号変更事項を記載することは、公証行為に属し、これによって新たに権利義務を形成し、或は、その範囲を明確にするものではない。従って、控訴人の主張にかかる登記は、行政事件訴訟の対象となる行政処分ということができないから控訴人の当審における新たな訴えは、却下されるべきである。」と述べた。

理由

(原審における訴えに関する判断)

一、当裁判所も、控訴人の被控訴人に対する原審における訴えは不適法であると判断するが、その理由は、原判決理由記載と同じであるからこれを引用する。

(但し、原判決七枚目―記録一二丁―裏一一行目に「処下」とあるのを「却下」と改める。)。

(当審における新たな訴えに関する判断)

二、登記官が、商業登記簿に登記事項を登載する行為は、公証行為に過ぎず、これによって国民の権利義務を形成し、或はその範囲を確認する性質を有するものではないから行政事件訴訟法三条所定の行政庁の処分その他公権力の行使に当る行為といえないから同法所定の「無効等確認の訴え」の対象となしえない(但し、右公証行為が、私人に、その反射的効果として社会生活上の利益を与え、又は不利益を負わしめることがあることに着目して、右のような公証行為も前記「行政庁の処分」に当るとすべきであるとする考えもある。そこで、仮に、その様な見解に立つとしても、本件訴えは訴えの利益を欠くから不適法たるを免れない。

以下その理由を述べる。

先に引用した原判決理由によって明らかな通り、裁判所としては、行政庁に対し積極的に行政処分を命ずることは法律に特別の規定がない限りできないから、仮に、控訴人が前記無効確認の訴において勝訴しても、登記官が、本件登記を抹消しなければ「訴え」の目的を達することはできない。

ところで、前記特別の規定により商業登記を抹消すべき場合は、商業登記法によって限定されており((同法一四条、三三条、三七条二項、四〇条、一〇九条一項、一一〇条参照))、これには本件請求につき控訴人が勝訴の確定判決を得た様な場合が含まれないことは明らかであり、右確定判決に基づいて本件登記を抹消することは許されない。法が登記の職権抹消を厳重に制限するのは次の事由による。すなわち、商業登記法二四条一三号、二七条によれば、商業登記の申請を却下しなければならない場合でも既に登記が完了されてしまうとその性質上、登記名義人や、登記を信頼して取引関係に入る第三者を保護する必要から、原則として当該名義人の申請によるか、登記名義人に対して抹消登記手続を命ずる確定判決((その訴訟上において登記名義人は、主張立証を尽くして自己の利益を防禦することができる。))による場合のほか抹消することができないとするのが相当であるからである。従って、本件の様な場合、控訴人は、登記の是正を求めたければ、登記名義人にその申請をして貰うか、同人を相手として、同人に対し抹消登記手続を命ずる旨の判決を求める訴えを提起し、勝訴の確定判決を得て、自らその旨の申請をすれば良いのであって、これが、本件の様な場合に現行法上設けられた救済方法である。そうすると仮に、登記官が登記簿に登載するという様な公証行為を「行政処分」と解するとしても、前記訴えが訴えの利益を欠くことは明白であるといわなければならない。)。

(結論)

三、以上の次第であるから、控訴人の被控訴人に対する原審における請求を不適法として却下した原判決は相当で、本件控訴は理由がないから棄却すべきであり、控訴人の被控訴人に対する当審における新たな請求も不適法であるから却下すべきである。

よって、訴訟費用の負担につき民訴法九五条及び八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 吉岡進 裁判官 兼子徹夫 太田豊)

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